「わかりました。じゃあ、当麻君と半年くらい連絡つかなくても、心配しなくていいってことね」
「ああ。詳しいことは言えなくて、ごめん」
「まったく、ほんとよ。困った時にはちゃんと頼ってね。SOSちょうだいよ?」
「わかってる。だけどな、母さんの方が俺は心配なんだ。すぐ調子に乗る、おっちょこちょいだからな。何かあったら、家の留守電に入れておいて。たまにチェックするからさ」
「はいはい」
「……あ、そうだ。これもついでに」
「あらあら、まだ何かあるの」
「俺、男が好きなタイプみたいだから。将来、孫は期待するなよ」
「え?」
「悪いけど、そういうことなんだ」
「別に悪くはないけど……。へぇ~。教えてくれるの、もうちょっと先なのかなって思ってたから。これはビックリした」
「何だよ、知ってたのか!?」
「うん。そりゃね、腐っても、当麻君の母親ですから?」
「…………いつから知ってたんだ?」
「うーん……、そうだなぁ……ああ、そうそう、一番最初に間違いないって思ったのは、三歳のときね」
「そんなに早いのか……」
「天才児だなんだって、すっごい大層な検査受けたの、覚えてるでしょう? あのとき。当麻君の検査をしてくれた人の一人で…………。当麻君、もしかすると覚えてない?」
「覚えてる!」
「若くて格好イイんだけど、ちょっとクールな感じで」
「そうだったかもなぁ」
「初恋だった?」
「どうだろう。それより前のことは覚えてないけど」
「あのときね、ああ、当麻君はこの人に恋をしているなって、わかったんだよね」
「なるほど」
「それからも、まぁ、ね。母はジャーナリストですから」
「とっくにバレてたワケか。お見逸れしました」
「ふっふっふ。当麻殿、心配めさるな。世の中変わるから」
「え?」
「アメリカはもう変わってきてる。異性が好きな人も、同性が好きな人もいるって、認められつつあるよ」
「そうだな」
「日本はアメリカの20年あとを行ってるっていうから、まだまだかもしれないけど、別に日本にいる必要なんてないし?」
「ああ」
「そんなこと言って、たいして気にしてないでしょうけど、孫なんて、ひとつも期待なんかしてないからね?」
「ま、だろうなと思ってたけどさ」
「当麻君って時々、突然そういう爺むさいこと言うんだから」
「爺むさい……」
「そういうとこ、源一郎君によく似てるわ」
「それは、嫌だな」
「親子ですから? 諦めなさい。源一郎君とこの私の子だから、信頼してるよ。当麻君は、大丈夫。頑張ってね。人生も、その、何だか話せないお仕事も」
「母さんもな」
おわり